COLUMN

~宮地陽子のGO FOR 2020~海外日本代表候補選手奮闘記
「敗れたという現在位置。歴史の財産を得た」


 FIBAワールドカップは、スペインの優勝で幕を閉じた。スペインがワールドカップ/世界選手権で優勝したのは2006年のさいたま世界選手権以来、2度目13年ぶり。13年前のロスターで、今回も代表に残っていたのは、マルク・ガソルとルーディ・フェルナンデスの2人だけだったが、この間に育った若い世代の活躍もあって、見事に優勝を果たした。

 かつての中心選手が故障や引退で去り、若い選手たちがその後を継ぎながら、再び頂点に立つ。スペイン代表のセルジオ・スカリオロHCは、世代交代しながらも強豪であり続けることができる理由について「勝つことが、さらに勝ち続けることの栄養となる(Winning feeds ability to keep winning)」と語った。

「準々決勝や準決勝、決勝を戦えば、それだけ、チームをどう統率し、どう勝てばいいかがわかるようになる。(中略)才能あるトップ選手がキャリアを終えた後も、彼がチームメイトに与えたレッスンのおかげでさらに続けて前に進んでいけるように願っている」

 大会で1勝もあげられず、5戦5敗で敗れた日本は、まだ「勝つこと」で次に繋げるステージにはいない。それでも、FIBA バスケットボールワールドカップ2019という世界の舞台に立ち、そこでの戦いを肌で感じたからこそ、次に繋げることができる。たとえ選手たちが入れ替わっても、前の経験をきちんと伝えていけるような組織であれば、成長し続けることができる。



 大会後に、フリオ・ラマスHCはこう言っていた。
「今年3月にFIBA バスケットボールワールドカップ2019と東京2020オリンピックの出場権を獲得し、その当時、我々はアジアの中でやっと少しレベルの段階をあげられたということに喜んでいました。今度は世界を見て、世界で競争していくためには、これからも成長し続けないといけないということを意識してやっていこうと思います」

 それでは、いったい日本代表には何が足りなかったのか。戦いを終えたコーチや選手が残した生の声を残しておきたい。

■フィジカル

「全部のジャンルにおいて力の差を感じました。ゴール下のコンタクトやフィジカルの部分で最初からガツガツと当たられたことが、最後の場面でボディブローのように効いてしまったのが僕たちの敗因でした。40分間通してハードに戦えなかったことが、少しずつ点差を離されてしまった原因だと思います」(馬場雄大)



「フィジカルをもっと激しくするとか、言葉では簡単に色々言える。でも40分間コンタクトし続けたりだとか、オフェンスも足を動かしてやるというところが結局できない。どんどんボディブローのように食らって、足が止まってしまって。試合終盤にはそういうところの差が出てくるのかなと」(田中大貴)

「ボールのないところでの相手のディフェンスの強度であったり、ボールをもらえない、スクリーンをかわされてしまうというところ。プレーを止めずにそのまま動き続ける、ボールを動かし続けるというところをぶつ切りにされてしまった」(篠山竜青)

 フィジカルの差については、フリオ・ラマスHCが大会中から、何度も、口を酸っぱくするほど語っていたことであり、コートに立った選手たちも、一番に痛感したことだった。

 直接ぶつかり合ったときの身体の強さの違いもさることながら、それに加えて、激しいコンタクトの中での戦いを40分間続けながら戦い抜く身体の強さや体力。そして、身体が疲れた状態でもきちんと最善のプレーを判断し、チームとして戦うためのスキルやメンタリティ。フィジカルの違いは、結局、試合中にすべての面で差となって表れていた。

 現状、国内での戦いでは経験できないことだけに、これを世界レベルに引き上げていくには、ふだんからの意識、世界を相手に戦う経験など、様々な施策が必要となる。

■シュート力



「相手はしっかりノーマークを作ってしっかり決めきる力があって、僕たちはそれを決めきれない。普段決められる選手であっても、こういう舞台では決められないということは、やっぱりまだまだ経験が足りないと思います」(馬場雄大)

 大会を通しての日本のシュート成功率は、32チーム中でも底辺のほうだった。

 FG成功率:38.4%(28位)
 2P成功率:42.8%(29位)
 3P成功率:28.7%(27位)

 ノーマークをなかなか作れず、ノーマークになった短い時間で躊躇なくシュートを打つ判断力、そしてそれを決めきるメンタリティなどが低いシュート成功率の原因となっていた。

 FIBA バスケットボールワールドカップ2019予選の試合でスターティング・ポイントガードを務めた富樫 勇樹が、大会前の合宿で手を骨折し、離脱したことも痛かった。サイズが小さく、ディフェンスでは弱点となることもある富樫だが、オフェンスのクリエイト能力ではずば抜けている。

「彼が欠けたことで、ポイントガードからのディフェンスを読んだりクリエイトされたパスの供給が少なく、3P試投数が少なくなった。予選で慣れ親しんだ方法が生まれず、本数も減り、確率も下がった」と、日本代表技術委員長の東野智弥は語る。

 もともと、今回の代表には所謂シューターはほとんど入っていない。世界と戦うためにはディフェンスやサイズ面を重視した選手選考を優先したためだ。東野は「FIBAバスケでプレーしている世界のシューターと呼ばれる人は、それぞれのポジションでディフェンスも出来るという観点から、小さい選手でシュートが入るだけでは難しいということを重視して選考したということだと思う」と、ラマスHCの選手選考基準について語った。

■ディフェンス

「今大会を通じて一番成長しなければいけないのがディフェンスの部分です。世界のベストチームが集うこの大会において、まだまだ日本は格下レベルです。格下が格上のチームに勝つためには、最低でも相手を70点以内に抑えなければいけない。他の試合を見ていても、70点前後の試合が多い。格上と戦うためには、その部分こそこだわっていかなければなりません」(フリオ・ラマスHC)



「(対シューターのディフェンスの)クローズアウトのスピードであったり、シュリンクの判断だったりというのが、やっぱりまだまだ足りなかった。たとえば、誰かがドライブをしかけてきたときに、果たしてこれはリングまで向かおうとしているのか、パスをさばくというところの判断。そういうところの駆け引きも含めて、判断力が足りなかったのかなと思う」(篠山竜青/チェコ戦後)

 5試合を通しての日本の平均失点は92.8点(大会32チーム中29位)。毎試合、80点以上を取られていた。ラマスHCは、これを70点以内に抑えなければ、世界のチーム相手に勝つチャンスはないと言う。基本的に、インサイドを固めるディフェンスを敷いており、チェコ戦後にラマスHCが「ペイントの中から決められた点数に関してはいい内容で終わったと思う」と言うように、試合によっては合格点のこともあった。

 とはいえ、抜かれることを警戒して離してマークしてノーマークの3Pを打たれたり、クローズアウト(ディフェンスの寄り)が甘くて打たれたりといった場面も多く見られ、相手に与えた3P試投数(平均30.6本)、相手の3P成功数(平均12.0本)共に大会32チーム中多いほうから2番目だった。

■アイデンティティ



「この大会でわかったことは、自分たちのアイデンティティがないということだった。自分たちが本当に得意なのは何なのかを見つけ、それを遂行するようにしなくてはいけない。速いペースで戦うのが得意なのか、スローダウンするチームなのか、シュートを多く打つのか、そうではないのか、自分たちでもわかっていなかった。サイズの大きなヨーロッパのチーム相手に5対5で戦いを挑もうとしていた。それは僕らにとって難しいことだ。このレベルでどうやって勝てばいいかをわかっておらず、負け方しかわかっていなかった」(ニック・ファジーカス)

 大会後にファジーカスが語ったこの言葉は厳しいものだったが、実際にそうだった。

 たとえば、大会4試合目、順位決定戦で日本が対戦したニュージーランドは、サイズ不足をスピードで補う戦いを貫いていたチームだった。平均得点99.4点は大会最多。失点も94.0点と多く、2次ラウンドには進めなかったが、自分たちの戦いを前面に出し、ブラジル相手に8点差、ギリシャ相手に7点差と、格上相手にもチャンスを感じられる試合を戦っていた。

 それに比べると、日本の試合からはどんな戦いに持ち込めば世界の中で勝てるのかが見えなかった。ファジーカスが言うように、サイズがないのにスピードでの勝負に持ち込むことができず、正面からの戦いで玉砕してしまっていた。意図してテンポを落とした戦いをしようとしていたというよりは、トランジションに持ち込ませてもらえていなかった。ディフェンスとリバウンドで互角の戦いができないため、トランジションに持ち込むことができなかった。アジアで通用することでも、世界では通用しない。世界で戦う中での日本のアイデンティティは何なのか。そのアイデンティティを試合で出すためには何をしなくてはいけないのか──。

 振り返ってみると、世界で戦うための大きな課題がいくつも見つかった大会だった。もっとも、どれも世界に出て戦ってみないことにはわからなかったことばかりだ。

 東野は言う。
「ここでしか得られないものがある。敗れたという現在位置。そこがはっきりしたことで、歴史の財産を得た」