COLUMN

~宮地陽子のGO FOR 2020~海外日本代表候補選手奮闘記
「自分たちのバスケットボール」


「自分たちのバスケットボールをやりたい」

「いかに日本のバスケットボールをうまく表現できるかは大事」

 FIBAバスケットボールワールドカップ 2019初戦でトルコに大敗した後、選手たちは口々にそう語っていた。
「自分たちのバスケットボール」「日本のバスケットボール」

 どちらも抽象的な表現だが、選手たちに詳しく聞くと、どうやら自分たちが練習してきたことを出し切るという意味で使っているようだ。

 竹内譲次はトルコ戦で出せなかった「日本らしさ」について、こう説明した。



「八村選手がいることで、彼に頼り過ぎちゃう部分はあると思うんですけれど、コーチも、そこはうまくおとりに使わなくてはいけないと言っていた。
 トルコもすばらしい選手がいますけれど、(その選手がディフェンスにマークされたときに)しっかりボールが回っていて、世界のレベルのバスケっていうのを知れた。そういう面では僕たちはまだ、5人全員がそういう中でできていなかった。スペーシングだったり、時間をかえてやってきたことを、こういうサイズがあって、フィジカルが強い相手でも、しっかり出せていけるような必要があるのかなと思います」



 ヨーロッパの強豪、トルコ相手に、日本のオフェンスは個人の1対1の打開しようとして、自滅する場面が目立った。チームプレーをする気がなかったのではない。フィジカルの強い相手に、思うようなパスを出せなかったり、パスの受け手がいるべき場所にポジションを取れなかったり、相手から徹底的にスカウティングされる中でやりたいことがやれていないことが原因だった。

 それでも、1対1で攻めるアグレッシブさを持つ選手が増えたことは、成長だ。

 竹内(譲)は、3年前にオリンピック世界予選に出場したときに、ラトビア相手に40点差で敗れたときのことを思い出して、言った。

「日本のような相手でも彼らはスカウティングして本気でぶつかってきて、その結果、40点差になった。勝負に対して、あっちも日本のことをリスペクトしてやってくれた。トルコもしっかり(日本のスカウティングをしてきた)。じゃ、その中でひとつ上回れるかっていうのは、今後大事になっていくのかなと思います」

 ワールドカップやオリンピックなどの世界大会で経験できて、強化試合で経験できないことは、本気でスカウティングされ、ある意味、丸裸にされた中での戦いだ。強化試合は、お互いに相手のスカウティングよりも、自分たちの戦い方の確認の面が重要になる。しかし、本番の大会となれば、相手の長所は徹底的につぶし、弱いところは徹底的に突いていく。

 大会2試合目となったチェコ戦で、日本は試合の入り方を修正し、前半はほぼ互角の戦いができていた。しかし、後半に入るとチェコのペースで引き離されてしまった。

 試合後、渡邊雄太は、自分のできることをすべて出し切ることができなかったと悔やんでいた。



「3Qにチームがしんどい時間帯があったと思うんですけれど、その時にちょっと自分も積極性を出し切れなかった。あの時間帯こそ、チームを引っ張っていかなきゃいけないときだった。自分が率先してチームを動かせるような力、リーダーシップを発揮しなきゃいけないなかったけれど、それができていなかった。そこが自分の中で一番悔しかったです」と語る。その理由については、「向こうがどんどんリズムをつかんできて、点数が離されていく中でも、自分自身も少し焦りが出てしまって、余裕が少しなくなったっていう感じだったのかなって思います」と語る。

 この大会が始まってから何度も“経験”の重要性が語られているが、こういったメンタルの持ち方こそ、経験しないと身につかないことだ。

 馬場雄大も、チェコ戦後に悔しそうにしていた一人だ。珍しく、試合後のミックスゾーンを素通りしてロッカールームに戻ったほどだった。その時の気持ちについて、後日、こう語った。



「相手のスイッチ・ディフェンスに対して、ふだん練習はしているんですけれど、僕が壊していかなくてはいけないところを、消極的になってパスを回してしまってアドバンテージを作れなかったりとか。気持ちではわかっているんですけれど、表現できなかったという部分が一番悔しくて。ミスしちゃいけないだったりとか、そういったほうの気持ちが優先してしまったところがあった。この独特な雰囲気っていう中の影響もあると思いますけれど…」



 渡邊や馬場に限らず、選手たちにとってはトルコ戦もチェコ戦も、できることよりも、できないことのほうが多かった試合だったかもしれない。フリオ・ラマスヘッドコーチが大会前に掲げた「ヨーロッパのチームから1勝あげる」という目標自体が、そう簡単な目標ではないことも痛感させられた。

 それでも、試合後に悔しさを隠そうともせず、できなかったことに正面から向かう選手たちを見ていると、やはり、こういう経験こそが選手を育て、チームを育てると思うのだった。どれだけスカウティングされても、どれだけ独特な雰囲気でも自分たちの力を出し切ること。それがどれだけ難しいことなのか、それがわかったことはこの大会で得た大きな収穫だった。