COLUMN

~宮地陽子のGO FOR 2020~海外日本代表候補選手奮闘記
いよいよ世界を相手に、本気の戦いが始まる。

 その試合は、八村塁にとっては、世界に出るきっかけとなった重要な試合だった。5年前、2014年にデュバイで行われたU17世界選手権での日本対アメリカ戦。強豪アメリカに対してチームがなかなか点を取れない中で、八村は孤軍奮闘し日本の総得点38点のうち25点を取った。この活躍や、大会の得点王となったことでアメリカの大学から注目され、ゴンザガ大をはじめ、多くの大学から勧誘されるようになった。

 八村自身も、アメリカ人選手たちを相手に対戦したこの試合からは大きな影響を受けたと言う。アメリカに留学する前の八村に、このアメリカ戦について聞いたときに、こう語っていた。
「世界大会に出たり、アメリカとやるっていうこと自体が日本では珍しいことだったので。だから、アメリカとも(対戦)できて、いろんな影響を受けましたね」

 一方、アメリカ代表の選手にとっては、正直言ってそれほど印象に残っている試合ではなかったようだ。何しろ122対38と大差で勝った試合。次から次へと試合が続く大会の中で、楽に勝った試合だったぐらいの記憶しかないのではないだろうか。

 日本戦でアメリカ代表最多の19点をあげたジェイソン・テイタム(現ボストン・セルティックス)も、その試合のことをあまり覚えていないようだった。今年 8月のアメリカ代表合宿で、当時の日本戦について何か覚えていることがあるかと聞くと、「うーん」と少し考えてから、「デュバイでやった試合だよね?」と確認してきた。そして、こう続けた。
「楽しい試合だった。日本相手の試合は楽しかった。勝ってよかったよ」

 84点差をつけて勝った試合で「勝ってよかった」もないものだけれど、それ以外に答えようがなかったのだろう。

 八村について聞くと「覚えている。今年、ウィザーズにドラフトされた選手だよね?」とまた確認してきた。八村率いるゴンザガ大は、去年11月にテイタムの母校デューク大と激戦を戦っていることもあってか、八村のことは知っていたようだ。
さらに少し考えてから、こう続けた。
「彼のことは少し覚えている。彼はあれからすごく上手になったよね。すごく練習したんだろうね」

 確かに、八村は5年前に比べると大きく成長している。それは、3年前に渡米し、ゴンザガ大でアメリカ人選手をはじめ、世界のトッププレイヤーたち、自分と同じようなサイズがあり、スキルを備えた選手たちと競うことでスキルを磨き、身体やメンタルを鍛えてきたからだ。今の八村にとって、世界レベルの中で戦うことは、もちろん大事な経験ではあるものの、「珍しいこと」ではなくなった。

 もちろん、だからといって、それだけで日本が世界に、アメリカに追いついたわけではない。八村と同じようにテイタムも成長し、今ではボストン・セルティックスの将来を担う選手として期待される存在になっている。日本代表のほかの選手たちも、これまでにないぐらい多くの経験を積み、「歴代最強チーム」と呼ぶのにふさわしいチームになっているが、世界各国も同じように世界で戦う猛者を集めてチームを組んでいる。簡単な戦いではない。しかし、この舞台に立ち、世界と対戦しないとわからないことはたくさんある。



代表キャプテンの1人、渡邊雄太は、大会1次ラウンドの舞台、上海に向かって発つ前に「日本のバスケ界が大きく変わろうとしています。僕自身、ワールドカップで日本のバスケが大きく前進するかどうかが決まるとも思っています」と宣言した。今回の代表チームの選手たちは、決して戦う前から目標を下げることなく、高い目標を口に出して語ってくる。

馬場雄大も、大会を前に「正直、予選突破が最低(ライン)だなと思っている」と語る。
「今までにない“ドリームチーム”だって言われていて。そこで予選敗退となろうものなら先が思いやられる。このメンバーが中心になって来年東京オリンピックに行くわけですし、そこは責任もってやりたいですし、自分たちにそれを課してやりたいと思います」
 確かに、世界と戦い、世界の強豪を倒すには、それだけの覚悟と自信が必要だ。



 運命のいたずらか、今回、日本が歴代最強チームで挑むFIBAワールドカップで、アメリカと同グループになった。

 先日、スポーツナビによる渡邊雄太、比江島慎、馬場雄大との対談で、八村は、5年ぶりのアメリカ代表との対戦について楽しみだと語っていた。
「僕的にはU17W杯で対戦したアメリカとの対戦が楽しみですね。その時のメンバーの何人かがNBAでプレーしていて、その中でもジェイソン・テイタムは代表に入ってくる可能性があると思うので、そこは意識します。その時のリベンジというわけではないですけど、アメリカ戦では僕がここまで積み重ねてきたものを出したいです」>スポーツナビより


 アメリカとの対戦はグループラウンド最終戦の9月5日。その前にトルコ(9月1日)、チェコ(9月3日)と対戦する。果たして、八村は、そして日本代表は、どれぐらいの成長を見せることができるのだろうか。相手選手たちの記憶に残るような試合を戦うことができるのだろうか。

 いよいよ世界を相手に、本気の戦いが始まる。