COLUMN

~宮地陽子のGO FOR 2020~海外日本代表候補選手奮闘記
“アイム・ザ・ベストプレーヤー”
 ゲームクロックは30秒を切っていた。
 マウイ・インビテーショナル(*)決勝戦、ゴンザガ大対デューク大は、ゴンザガ大の2点リードで終盤を迎えていた。ボールを持っていたのはデューク大の1年生ガード、RJ・バレット。カナダ代表でもあり、来年のNBAドラフト1位指名の有力候補と言われる選手だ。バレットは、八村塁(ゴンザガ大)がマークしているチームメートのジャック・ホワイトに、自分のところにスクリーンに来るように指示を出した。スイッチさせて、八村との1対1に勝負をかけようとしたのだ。
 試合後の記者会見でその時の気持ちについて聞かれた八村は、こう答えた。
「(バレットが)僕のところでスイッチさせて1対1を挑んできたから、こっちも『それならやってやろうじゃないか』という気分だった。そうしなくてはいけないと思ったんだ。僕らはアメリカでベストチームだし、僕もベストプレーヤーだ。だから、彼を守り切らなくてはいけないと思った」




いつもの彼らしい、淡々とした口調だったが、語っている内容は熱かった。会見場の記者たちも、みんなこの言葉に興味をひかれたようだった。

 八村は、この言葉どおり、ドライブインしてきたバレットをタイトなディフェンスで守り、シュートを外させ、直後のホワイトのシュートミスのリバウンドを確保している。と同時にファウルされて床に倒れると、手にしっかりとつかんでいたボールを、気合を入れて床に叩きつけた。ゴンザガ大に勝利を引き寄せたビッグプレーのひとつだった。
 今季のデューク大は、バレットやザイオン・ウィリアムソンをはじめ、来年のNBAドラフトで上位指名が確実と言われる才能豊かな1年生選手が揃った注目チームで、開幕から大学バスケ界の話題を独占していた。開幕直後に、当時、全米ランキング1位だったケンタッキー大を34点差で破るなど、話題だけでなく、実力でも圧倒的なところも見せていた。
 そんなチーム、そんな選手を相手にしての、八村のこの言葉だったのだ。
「僕らはアメリカでベストチームだし、僕もベストプレーヤーだ」
 この部分だけ抜き出すと、自信たっぷりな、もしかしたら少しばかり傲慢なコメントに聞こえるかもしれない。勝った後とはいえ、全米が注目する記者会見で、バレットやウィリアムソンに対して「俺だってお前らと引けを取らないぞ」と断言したのだから、確かに、日本的な謙虚さとは程遠い。
 しかしこの言葉にこそ、八村がゴンザガ大での2年余りで学び、身に着けた大事なエッセンスが詰まっていた。
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